コンピューターおじいちゃん

「じゃ、おれはこれで」
「あっ、待ってくれ相馬!」
 どうしても機械に弱いらしい羽澄光汰が学校のコピー機に紙を詰まらせて半泣きになっていたので(初めて使うものでもないだろうに)詰まりを直し、ついでに給紙ローラーの掃除をしてから立ち去ろうとしたところ、呼び止められた。
「なんですか」
「いつもありがとう。この前もパソコンの不調を直してくれたし」
「羽澄先輩が余計な設定をいじったことで生じたトラブルですね」
「その前はこれより小さい方のコピー機だったな」
「羽澄先輩が無茶苦茶に叩いたから部品交換する羽目になった事案ですね」
「相馬は機械に明るいから助かるよ!」
「羽澄先輩はもう少し自分を省みたほうがいいですよ。僭越ですが」
「はは、そうだな。でも、俺も機械を使えるようになりたいし……。そうだ、相馬、週に一度でいいから俺にパソコンを教えてくれないか?」
「嫌です。おれもいろいろやることがあるんで」
「おでんを奢ってもか?」
「あははは、羽澄先輩ってめちゃくちゃ面白いですね。嫌です」
「そこまで言うなら仕方ないか。でも俺は諦めないからな」
 羽澄光汰は一旦肩を落としたものの、すぐに顔を上げてニッコリと笑った。
「おれに習うのを諦めて駅前のパソコン教室とか行ったらどうですか? あ、商工会議所でも平日夜から高齢者向けのパソコン教室やってるみたいですし」
「なんだ、相馬は物分かりがいいから俺の意図を分かってると思ってたけれど」
「は?」
「俺は相馬ともっとコミュニケーションを図りたいから『相馬に習いたい』って言ってるんだ」
 ニコニコ。じゃねーーーーよ。分かってんだよ、お前の意図くらい。どうせそんなこったろうと思ったから断ってんだよ。ああ、なんだこれ、おれがまるで
「羽澄先輩は本当に自省してください。マジで。あとそれでも嫌です」
「うん、待ってる」
 待ちぼうけて死ね。