星屑のテオレム

3-2

 唯誓は他人を遠ざけて生きてきた子だったから、こうやってあの子を訪ねてくれる人が嬉しいんだ。ここにいる子どもたちは程度の差こそあれど、他人を信じ切れない気持ちが強い子が多い。それがどのように表れてくるかは子どもそれぞれだが、自他の境界線が曖…

3-1

 華日ちゃん、かなり落ち込んでると思うけど、何かあった? 洋菓子店でパティシエをしている母親から訊かれ、湊叶は間髪入れずに「何で俺に聞くんだよ」と返した。「何で、って本人にはとても聞けそうにないからじゃない」と呆れたような母親の声。「ショー…

2−10

 由瀬通。能力『瞬間移動』。それも練度が高く、他人を連れて移動出来る。 一週間近くかけて、鵜原が探し出した星憑きだ。 一応警察からも総能研の提供する星憑きデータベースにアクセス出来るが、権利を持つのは部長クラス以上、対象端末どころか施設内の…

2-9

『学園祭お疲れ様会参加者はここに名前書いて』 教室の後ろに貼られた裏白プリントに黒マーカーで書き殴られた文字。体育祭の後片付けのさなか、なんともアナログな方法で参加者が募られていた。「桜庭行くだろ。名前書いとくぞ」「あー……」 友人に一旦生…

2-8

「イッヒー、たまに妙な情報網駆使してくるよな」 街中を行きながら重光が呟く。先を行っていたいつひが半身で振り向くと「まーね。ボク、武藤くんとは逆で頭脳派だし」と笑った。手にはフライドポテトとハンバーガーがある。お腹が空いた、と手頃な店でテイ…

2-7

 学園祭二日目は予定より規模を縮小して開催されることになった。八草たちの襲撃にショックを受け体調不良を起こしている学園祭実行委員や一般の生徒が複数人いるそうだ。重光が保見の腕を千切った様子が最前線以外の生徒らに見られていなかったのは良かった…

ねこ

 猫を飼っていたことがあったんだ。「はあ」 羽澄光汰に「ちょっと話したい」と呼び出され、指定された教室に向かった先での第一声はこれだった。「施設でね。可愛くてよく懐いてくれたんだ。いつの間にかいた子だから、施設に居着くようになった頃には成猫…

2-6

 蝉がうるさい。 炎天下を避け、技術棟近くの小さな雑木林の木陰に逃げ込んできたものの、同じく避暑をしながらその命を燃やし尽くさんとばかりに鳴く蝉の大音響に重光はそろそろ耳が痛くなりそうだった。「うぜー」 がん、と一番近くの木を蹴りつける。無…

2-5

 期末テストが返ってくる。今日と明日の二日間かけてテスト返却だけが行われ、二日目の午後からは学園祭準備が始まるのだ、が。 もうすぐ待望の学園祭準備期間だというのに、いつひの表情はちっとも冴えない。理由は単純で、二限目に返ってきた英語のテスト…

2-4

「なあ、トト。倉庫に置いてたアレ・・、何?」 突然、トトの背後に現れた少年は青い顔でそう尋ねた。体を包むビーズクッションに寝そべる(ほとんど埋まっていた)トトは煩そうに振り向くと「仲良し」とだけ答えた。数刻前に世界で一番憎らしい奴と出会って…

2-3

 集めた捜査資料を詰めたダンボールが外部の人間によって持ち出されていく。なんとまあ、情けない光景か。 佐波沼警察署の刑事、鵜原誠也うはらまさやは腕組みをして目の前を通る、スーツ姿の男女を睨んでいた。鵜原のデスクに男の手がかかったとき、思わず…

2−2

 散々な目に遭った! 午後五時半である。生徒会からようやく解放された髭右近は不機嫌な顔で校門を出た。普段は六限目が終わるとすぐに学校を出るため、こんな時間にまだ学校にいること自体が不愉快だ。 なかなか解放されなかったのは自分の能力が危険視さ…